クロマグロの遊漁(釣り)に関しては、近年、国際的な資源管理措置のもとで国内の規制体制が厳しくなっている。これは漁業者のみならず、船釣りや陸っぱりを含むあらゆる釣り人に影響が及ぶ重大な内容である。とりわけ、令和7年4月からは小型魚(30kg未満)の採捕禁止や大型魚(30kg以上)の月別採捕上限量の設定、報告期限の短縮など、多岐にわたるルールが導入されている。こうした規制の背景には、資源量を回復・維持しつつ持続的な利用を図る必要性があるからである。
しかしながら、実際にクロマグロがヒットしてしまった場合、釣り人はどのように対応すべきなのか。陸や堤防での釣りでも、または遊漁船やプレジャーボートなどでのオフショアでも、クロマグロが掛かる可能性はゼロではない。ここでは規制内容のポイントや、いざクロマグロが釣れてしまった場合の正しい対処法、報告の手順などを整理する。
さらに、本稿では表形式によるまとめやQ&Aも用意した。読み進めることで、クロマグロをめぐる最新の規制や実際の流れを理解し、もしもの事態に冷静に対処できるようになってほしい。
クロマグロ遊漁規制の概要

規制が設けられた背景
クロマグロは資源量の変動が激しく、特に小型魚(30kg未満)の漁獲が多いと将来的な親魚量の減少につながる恐れがある。国際的には中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の決定に基づき、小型魚と大型魚の漁獲量を厳格に管理しなければならない状況だ。日本国内では漁業者に対する数量管理を行っているが、これを実効性のあるものにするため、遊漁者にも一定の規制を課す必要があるとして令和3年から広域漁業調整委員会の指示によるルールが導入され、令和7年4月から内容がさらに強化されている。
対象となる釣り
規制の主なポイント
令和7年4月からの新しいルールをかいつまんで示すと、以下のようになる。
小型魚(30kg未満):
一切の採捕禁止。釣り上げた場合は、すぐに海へリリースする必要がある。
大型魚(30kg以上)
年間総量60トンの上限(令和6年度までは40トンだったが拡大された)。
月ごとに均等に割り振られた数量を超えた場合、その月は即時採捕禁止となる。
1人あたりのバッグリミットは「1か月に1尾」。
採捕した場合の報告期限は陸揚げ後「1日以内」に短縮。
報告内容として「尾さ長」や「陸揚げ場所」「計量方法」「遊漁船登録番号」「船舶番号」「本人確認写真」などが追加。
《表:令和7年4月からのクロマグロ遊漁規制概要》
項目 | 内容 |
---|---|
小型魚(30kg未満)の扱い | 周年採捕禁止。釣れたら直ちにリリース |
大型魚(30kg以上)の年間採捕総量 | 60トン(月ごとに分割。超過見込みで当該月は採捕禁止) |
バッグリミット(大型魚) | 1人につき毎月1尾 |
採捕報告義務 | 陸揚げ後1日以内 |
新規追加の報告項目 | 尾さ長、陸揚げ場所、計量方法、船舶番号、本人確認写真など |
規制違反時の対応 | 1回目の違反で即座に農林水産大臣名による命令発出、罰則の可能性あり |
もしクロマグロが釣れてしまったら
クロマグロが掛かる状況は釣り人として非常に興奮する瞬間である。しかし、サイズにより対応が大きく異なるため、状況に合わせた正しい対処が不可欠だ。
小型魚(30kg未満)の場合
30kg未満は「採捕禁止」である。キャッチ&リリースを前提としても、クロマグロを狙った釣り自体が禁じられている。もし意図せず小型が掛かってしまった場合は、速やかに海中へリリースしなければならない。死んでしまった場合や弱ってしまった場合であっても、海に戻す以外の選択肢はない。持ち帰ったり、販売したりすると違反となり、厳しい罰則が科される可能性がある。
大型魚(30kg以上)の場合
30kg以上であれば、年間総量の枠内、かつ当該月の上限がまだ余っている状況であれば採捕自体は可能である。ただし「1人1か月に1尾まで」のバッグリミットがあり、すでにその月に1尾をキープしているならばリリースしなければならない。また、万が一採捕禁止が公示された後に釣り上げた場合もリリースが義務づけられている。
大型魚を持ち帰る場合は、必ず1日以内に採捕報告を行わなければならない。報告内容が不完全または虚偽であった場合、さらに違反とみなされる可能性もあり、こちらも注意が必要である。
採捕報告の手順
報告方法
令和7年4月からは報告期限が陸揚げ後「1日以内」に短縮されている。主な報告方法は以下の二つである。
専用の報告サイトから送信
スマートフォンやパソコンからアクセスし、釣った本人が必要事項を入力して送信する。電話番号認証などの二重認証システムが導入されており、偽装や重複報告を防止している。
LINEアカウントを用いた報告
公式アカウントを友達登録し、画面の案内に従って写真や情報を入力する。過去の釣果を閲覧できる機能もある。
インターネット環境が整わないなどで報告サイトの利用が難しい場合は、所定の報告書をダウンロードし、必要事項を記入して提出する方法も用意されている。
報告に必要な情報
今回追加された報告項目として尾さ長(魚体の後端から尾叉までの長さ)や、陸揚げした場所、計量方法などがある。さらに、自身の免許証写真や釣ったクロマグロの計測写真の提出も求められている。これらによって正確な重量やサイズ、そして違反報告の抑止を狙っている。
規制違反となった場合の対応

違反者への命令
令和7年4月からは、1回目の違反であっても農林水産大臣名による「指示に従うべき命令」が発出される。命令に従わない場合、漁業法第191条により1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性がある。令和6年度以前は、初回の違反であっても委員会会長からの文書指導にとどまるケースが多かった。しかし、既に十分に周知期間を経ているという判断から、迅速かつ厳格な対応に移行している。
販売行為への厳重注意
遊漁者が釣り上げたクロマグロを営利目的で販売することは、漁業権の無許可行使と見なされる場合がある。自分が経営する飲食店で提供するケースなども違反に該当する恐れがあり、実際にたびたび問題になっている。市場関係者にも遊漁で得たクロマグロを受け入れないよう要請がなされている。
違反数の現状と今後の流れ
過去には小型魚を持ち帰ったり、複数尾を採捕したにもかかわらず報告を怠ったりした事例が見受けられ、農林水産大臣名の命令が発出される事態へと至ったケースもある。令和7年4月以降は2年間(令和9年3月末まで)この新たな指示が有効とされるが、違反が相次げば追加的な規制の強化もあり得る。
また、将来的には遊漁者を対象とした「届出制」が令和8年4月から開始される計画も発表されている。届出制の運用が始まれば、さらに厳密な管理が行われる可能性がある。
クロマグロが釣れたらどうする?:実際の流れ

- サイズ確認
釣れたクロマグロのサイズ(重量)を素早く確認する。測定器具がない場合、大まかな基準として体長100cm前後が30kgの目安とはいえ、個体差があるため不確実である。計量できない環境ではリリースするのが無難だ。 - 規制状況の把握
すでに月ごとの採捕枠が埋まっているか、公示により採捕禁止となっていないかを確認する。採捕禁止期間中ならば即リリースすること。 - 大型魚の採捕を選択する場合
バッグリミットは1人1か月1尾である。今月すでに1尾を持ち帰っているならばリリースが義務。持ち帰る場合は必ず1日以内に報告が必要。 - 報告の実施
専用サイトやLINE公式アカウントにアクセスし、重量・尾さ長・陸揚げ場所・計量方法などを正確に入力する。あわせて証拠写真もアップロードする。 - 販売目的の利用の禁止
たとえ大型魚を釣り上げても、営利目的の販売は認められない。自宅での消費や友人へのおすそ分け程度にとどめること。
Q&A

ここでは、クロマグロ規制に関する疑問をまとめたQ&Aを用意する。
Q1. クロマグロ釣り自体が禁止されているのか。
A. 30kg未満のクロマグロを狙う釣りは完全に禁止されている。30kg以上のクロマグロを狙う釣りは、採捕禁止期間中でなければ許される。しかし、たとえ大型でも年間60トンや月ごとの数量上限を超えると、その月は採捕が禁止される。
Q2. 釣ったクロマグロが弱っている場合もリリースしなければならないのか。
A. 30kg未満であれば例外なくリリースである。死んだ状態になっていても同様に海に返す必要がある。30kg以上でも採捕禁止期間中やバッグリミット超過の場合はリリース義務がある。状態に関係なく放流が原則となる。
Q3. 計量器具が無く、正確な重量がわからない。どうすればいいか。
A. 100cm以上であっても個体差により30kg未満の場合がある。秤がない場合は30kg未満の可能性を排除できないため、リリースが推奨される。規制違反のリスクを負うくらいなら、無理に持ち帰らないほうが無難といえる。
Q4. 採捕報告は誰が行えばいいのか。
A. 必ず釣り上げた本人が行わなければならない。遊漁船を利用した場合、船長や同行者が代理報告するのは原則認められていない。報告内容に疑義が生じた場合、電話やメールで確認が入ることがある。
Q5. 自宅の飲食店でお客に提供する行為は可能か。
A. 遊漁者が釣ったクロマグロを営業目的で提供することは違反とされる可能性が高い。市場へ卸す、飲食店で売るといった行為はいずれもリスクがある。どうしても提供する場合は漁業の承認が必要とされ、ハードルは極めて高い。
令和7年・令和6年の採捕実績
令和7年度の大型魚(30kg以上)採捕実績は、まだ始まったばかりのため詳しい情報は公開されていない。各地でクロマグロが釣りあげられている情報があるためすぐに上限に達しそうだ。月別の上限に達した場合、公示により採捕禁止となる。令和6年度は合計38.0トンのクロマグロが遊漁で採捕されており、地域によっては特定の海域で多くのクロマグロが釣り上げられた実績がある。
今後の規制強化と展望
令和8年4月からは、遊漁者を対象とする「届出制」の導入が予定されている。今後はクロマグロ遊漁に特化した専門部会を中心に、より詳細な制度設計が進む見込みである。漁業法や特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律の改正もなされ、TAC(総漁獲可能量)の報告義務に違反した個体の流通を防ぐための新たな記録・取引伝達の義務付けが検討されている。
遊漁の世界でも「釣り人がどれだけ公正かつ透明性のある釣行をしているか」が問われる時代になってきたといえる。クロマグロという希少かつ高価値の魚を楽しむのであれば、現行の規制ルールを守ることが不可欠だ。単独や小人数での釣りであっても、規制違反により発覚すれば行政処分や刑事罰のリスクがあることを強く認識すべきである。
10. まとめ

クロマグロをめぐる規制は、年々厳格化の方向に進んでいる。小型魚(30kg未満)は採捕禁止、大型魚(30kg以上)も年間60トン・月別配分・バッグリミット1か月1尾など多くの制約がある。違反すれば最悪の場合、罰金や懲役の罰則につながり、釣り人自身の楽しみも失われかねない。
その一方、ルールを守ればクロマグロという大型魚をキャッチできる貴重な機会がある点は確かだ。国際的な資源保護の中で日本国内の漁業・遊漁を両立させるためには、釣り人一人ひとりが正しい知識と行動を身につけることが必要不可欠である。もしクロマグロが掛かったとしても、サイズや規制状況を冷静に判断し、報告義務を守り、資源の持続利用に協力していくことが求められる。
これからクロマグロを狙う、あるいは偶然掛かってしまう可能性のある釣りを行う際は、本稿で示した内容を参考にしてほしい。大切なのは、「釣れてしまったらどうするか」をあらかじめ想定し、適切な準備をしておくことである。日本の海の未来を守るためにも、決して違反行為に手を染めることなく、健全な釣り文化を次世代へ繋げる姿勢が重要である。